HOME » 人財育成資料室 » 研修虎の巻 » 研修のカリキュラムとレッスンプランの違いとは?
研修を企画/運営する立場の人は、研修の内容を確認する時にカリキュラムを確認します。
また、受講生に「こういう研修をやりますよ」という告知をする時にカリキュラムを提示します。
このように当たり前のように使っている「カリキュラム」ですが、実はその意味するところには抽象的な部分と曖昧さがあります。
また、時々「レッスンプラン」「タイムスケジュール」という言葉が使われることもあり、その使い分け方もやや曖昧だったりします。
今回は研修を企画/運営する上でよく使う「カリキュラム」「レッスンプラン」「タイムスケジュール」の関係性について考え、それぞれの位置づけを整理してみたいと思います。
※今回の内容も使い分けや言葉の定義に抽象的な部分、あいまいな部分がありますのでご了承ください。
カリキュラムは、一般的には学習目標を達成するための計画のことを指します。
学習計画を表現したものには「教育過程」という言葉もありますが、主に学校教育で使われることが多い言葉のようです。
学校教育においては、カリキュラムと教育課程は実際のところあまり明確な使い分けをされていないようです。
企業研修でカリキュラムという時には、研修の内容を確認/検討するためにまとめられた情報を指すことが多いようです。
一般的には、研修を企画して実行に移していく段階で「誰を対象に」「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「どれくらいの期間」「どうやって」「何を使って」研修するかという要素を決めていくことが必要で、それをまとめたものをカリキュラムと呼びます。
カリキュラムの大事なポイントは、どんな授業や研修をするのかがある程度イメージできるように作ることにあります。
しかし、研修の内容を限られた書面で表現するのには限界がある上に、実はカリキュラムの記述形式にも色々なやり方や考え方があるため、なかなか「こう書けばよい」というように整理しきれない実態があるのです。
今回は大きく二つの「カリキュラム記述の考え方」をご紹介します。
教える内容中心の記述は、「教える側が何を教えるか」を中心に記述するやり方です。
学校の授業で言えば「足し算」「鎌倉時代の年表」のような記述が代表例です。
企業研修で言えば「電話応対の基本」「SWOT分析」のような形になります。
学習内容が分かりやすい一方で受講生の学習成果に立った視点が弱く、計画作成者側の教える意図が色濃く出ているものと言えます。
「受講生が経験すること中心の記述形式」は「教わる側が何をやって何を経験するか」を中心に記述するやり方です。
学校の授業で言えば「社会科実習」「体験学習」のような書き方になります。
企業研修で言えば「倉庫のライン業務体験」「座禅研修」「問題解決会議」のような記述になります。
「受講生を学習の主役として、受講生の学びをもって成果とする」という考え方は非常に重要な考え方だということは前にご紹介した通りですが、それをカリキュラムの書き方に展開しようとすると、授業や研修のイメージが分かりにくいものになってしまうのが問題と言えます。
余談ですが、ある企業は座禅研修を行っていて「体験を通して得た学びは本人のものであってそれを他人がどうこう言うべきではない」という考え方だったそうです。
従って他の研修はすべて日報の提出を義務付けていますが座禅研修は日報を提出しなくてよし、としたそうです。
この記述形式の対立は、前回お伝えした「意図主義的教育観 対 成功主義的教育観」の対立構造をそのままカリキュラムの記述に展開したものと言えます。
研修設計の中心概念としては「成功主義的教育観」が優勢ですが、カリキュラムの記述形式となると「教える内容中心の記述形式」の方が優勢なようです。
現在は「電話応対の基本(講義、ロールプレイング)」「SWOT分析(グループ討議)」のように、項目と進め方をセットで記述することも多くなっていますが、まだまだ教える側の意図を書いているという色彩が強くて「成功主義的教育観に基づいたカリキュラム記述」には課題が多いのが現状です。
とはいえそもそもの目的に立ち返れば、カリキュラムはあくまで「研修の内容イメージを理解するための手段」で、研修の目的は「受講生が学ぶこと」です。
手段が目的になってしまうこと、つまり「研修のための研修」は避ける必要があります。
そのためには「カリキュラムは絶対のものではなく、状況によって変わることがあるものだ」という柔軟な受け止め方を関係者が共有していることが重要になると考えられます。
レッスンプランは研修を運営する上でカリキュラムよりもより詳細な計画/予定のことで、どういう順番で何をどういう講義やワークをするのか、どれくらいの時間を使うのかを記述します。
目的としては講師が自分の研修の準備のために作るもの、と位置付けられます。
レッスンプラン作成時のポイントは「研修運営上の重要ポイントを明確にする」「どういう説明で何について話すかを明確にする」「前後の内容のつながりを明確にする」ことにあります。
レッスンプランがよく練られていない研修は
・重要ポイントが分かりにくいので、メリハリがなくインパクトに乏しい印象になる
・説明内容の練度不足や、講師の思い付き発言、アドリブが悪い意味で目立つ
・一つひとつの章立ての繋がりが分かりにくいので文脈を理解しにくい
等のエラーが発生します。
また、複数の教室で並行コースを行う時には、レッスンプランを共有して品質管理を行うことが重要になります。
レッスンプランに対してタイムスケジュールは、単純に研修を行う際の時間進行の予定を記述したものです。
そういう意味ではタイムスケジュールはレッスンプランの一部分でもありますし、受講生に対して研修の内容と当日の予定を告知する意図で使われることもあります。
レッスンプランもタイムスケジュールも研修当日の予定を表現しているものですが、それぞれ活用する人によって受け止め方が違うので取り扱い上の注意点があります。
「成功主義的教育観」の視点から見ると、次の3点を挙げることができます。
タイムスケジュールについてあまり詳細に説明しすぎると、「今日の研修の内容はこんな感じか」と、受講する前から「実際は分かっていないのに分かった気にさせてしまう」という事態を招くことがあります。
したがって、受講生に告知するタイムスケジュールはあまり細かくしすぎないものの方が運営上は望ましいケースが多いように感じています。
タイムスケジュールのとおりに進行しないと不満を示す受講生がごくまれにいるのでその点では注意が必要です。
レッスンプランは重要なものなので絶対に準備をするべきです。
準備しないで研修に臨むのは低品質な研修をすることにもつながりかねず、受講生に対して失礼にあたります。
その一方で、レッスンプランのとおりに研修が進まないことも当然あると考えて柔軟な運営ができるような準備も同時にしておくべきです。
受講生の学びには受講生の受け止め方の他にも様々な変数が存在するため、状況に柔軟に対応して納得度の高い研修を行うためには、レッスンプランに囚われすぎるのもノープランノーアイデアも同様にNGなのです。
きちんと計画と準備をするからこそ柔軟性の担保に繋がり、結果当初の計画を修正しながらでも問題なく進行できるのです。
企画や営業の場面で、よくカリキュラムについて「この討議は何分やりますか?」という質問を受けます。
その延長線上で「レッスンプランを事前に作成して提出してください」と求められることもごくまれにあります。
レッスンプランは講師が研修を運営するために作成するもので、重要なノウハウが詰まっている秘匿レベルの高いものです。
大変恐縮なのですが提出はお断りしております。
研修実施の際にレッスンプランの提出まで求めるのは、美術館に例えれば「入館料を払うので図録をください」「完成品の他に画家の下書きのスケッチを見せてください」という状況に近いと言えます。
美術館にとって、入館料は館内に入って美術品を鑑賞するのにいただくお金です。
図録は図録で別でお会計をいただく重要な商品です。
また、下書きのスケッチと出来上がったものは別、という解釈が一般的だと思います。
従って、入館料と図録のお代が別なように、研修実施の費用でレッスンプランまでお渡ししない研修会社がほとんどだと思います。
また、「この討議は何分やりますか?」という質問については、「受講生が納得するのはどれくらいの時間なのか」「どれくらいの時間がかかるのか」はテーマや受講生の状況、更には研修実施に許された時間によって変わるので、目安としての時間の提示となります。
変更することもありうることをご理解いただけますと幸いです。
なお、研修そのものを「研修プログラム」という言い方も存在しますが、プログラムの語源が「pro=あらかじめ」「gram=書かれたもの」というものですので、「教える内容中心の記述形式で書いたカリキュラム」と「カリキュラムに書かれたものを忠実に実行に移す運営」の両方を併せ持つ意味で使われる、という位置づけで理解すると分かりやすいのではないでしょうか。研修プログラムという呼称もまた「意図主義的教育観」に立ったもので、アドリブや柔軟性が入る余地がなさそうに聞こえます。
未来マネジメントでは、レッスンプランの作成を含めた研修の企画、開発について豊富な実績を持っています。
研修の内製化や社内講師養成、独自の研修開発をお考えの企業様には色々な角度でお手伝いをすることが可能かと存じます。
社内で研修講師の養成をお考えで、今回のコラムの内容にご関心をお持ちの方は遠慮なくお問い合わせください。
株式会社未来マネジメント 取締役 営業部長 日吉良介
研修会社、人材開発業界で15年以上にわたり営業、講師、コンテンツ開発に従事している。
研修企画者として「日本にはまだ数少ないプロのインストラクショナル・デザイナー」と呼ばれることを夢見て日々研修の企画に取り組んでいる。
自身の講師としての得意テーマは「営業研修」で、これまでに3,000人以上の営業職が研修を受講している。
趣味は読書、プラモデル制作、フットサル。