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経験学習理論は、アメリカの教育理論研究家であるディヴィッド・コルブが提唱した学習スタイルである。
人間が学ぶ上で重要な二つの要素に「知識」と「経験」があるとされている。
コルブはバランスを思い切り経験側に寄せて考えていて、「経験は最高の教師」ではなく「経験は唯一の教師」であると説明した。
また人間は過去の学びの産物であり、大人になるとこれまでの記憶や思考で作られた「自己」が強くなり、子供と比較して経験から学ぶことが難しくなると説いた。
こうした考えをベースに経験から学び、道徳的かつ世の中の役に立つ人として成長するためのモデルとして1984年に経験学習理論を発表した。
日本では2011年の松尾睦氏(北海道大学経済学部教授)が著した「職場が生きる人が育つ『経験学習』入門」という著書を通して広く知られている。
コルブはより良い学びを得るためのモデルとして、下記のような図で学習サイクルを説明している。
また、これらのサイクルと脳の部位の働きを結び付けて説明したり、人によって学習サイクルのフェーズで得意不得意があるといった論考を行ったりしている。
経験学習理論は、ジョン・デューイやウイリアム・ジェイムズといったプラグマティズムの思想家の考えをアップデートして整理統合したもの、と位置付けられる。
※プラグマティズムとは=日本では「実用主義」や「実際主義」と訳されるアメリカの思想。
経験学習理論の背景になった思想は非常に伝統的なものであるが、近年になってより注目されるようになった考え方である。
有名な事例としてはYahooで行われている1on1Meetingの背景理論として知られている。
2013年に行われた調査によると、マネジメント教育研究誌の記事の27%が経験学習理論または学習スタイルに関するものだったという。
このように「経験学習理論」は非常に注目されている学習モデルである。
知識や思考偏重の考え方では口だけの評論家や行動が伴わない頭でっかちになってしまい、あまり仕事の役に立たないことも多いことは以前から指摘されている通りである。
しかし、その一方で「知識/記憶/思考の軸をあまりにも軽視している」「企業において重要となる組織的なアプローチを軽視し、個人ごととして捉えすぎているため属人的な風土を助長する」といった批判もある。
中原淳氏(立教大学経営学部教授)は、これまでの日本の企業教育の歴史を「アカデミー軸/知識思考主義」と「経験軸」の間で振り子のように行ったり来たりしてきた歴史として説明している。
「経験学習理論」が経験軸側の理論であるならば、今後はその対抗軸にはどのような研究が発表されるのか注目されている。
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