HOME » 人財育成資料室 » 人材育成キーワード » 【ファスト教養】
「ファスト教養」は、レジ―著、集英社新書『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』から広がった概念で、教養を「ビジネスに即役立つもの」「人生でなく財布を豊かにするもの」として扱い、インプットの時短化や分かりやすさ、とっつきやすさと併せて流行する現状の「教養」を説明する言葉。
特に若手サラリーマンが「教養」をファストフード的に受け入れる際の姿勢に対して用いられる。
『ファスト教養』の著者レジ―は、ファスト教養を「ファストフードのように簡単に摂取でき、『ビジネスの役に立つことこそ大事』という画一的な判断に支えられた情報。それが、現代のビジネスパーソンを駆り立てるものの正体である」と説明している。
(レジ―著、集英社新書『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』より引用)
レジ―は「教養がないと競争から脱落して生き残れなくなるのでは」という強迫観念が若手サラリーマンに広く見られる現象であり、それが「差別化ツール」としての教養の需要と「教養としての~~」というタイトルのビジネス書のブームを作り出していると説明している。
その背景では日本での新自由主義の浸透/展開と「自己責任論」の台頭、そしてこうした状況の中で活躍した著名人の言動が大きな影響を与えているという。
こうした状況に対して、レジ―は元慶応義塾長である経済学者・小泉信三の「すぐ役に立つ人間はすぐに役に立たなくなる」という言葉を紹介して、「ファスト教養」を取り巻く環境に対して疑問を呈している。
ファスト教養の受け入れられ方として動画サイトの教養番組があり、「ファストに」「手軽に」「分かりやすく」「面白く」という受け入れられ方は「タイムパフォーマンス」を重視する視聴スタイルのカルチャーと完全に同期しているように見える。
「タイムパフォーマンス」という概念が知られるようになったきっかけの一つである書籍『映画を早送りで視聴する人たち』(光文社新書、稲田豊史著)の中で、映画を「鑑賞する」と「消費する」という言葉を対比させているが、教養に対しても全く同じ対比が成立するところが面白い。
企業研修の業界では「教養」と「スキル」の間をブームが行ったり来たりする現象が長く続いているのだが、現在はライフハックに代表されるような、いわば「ファストスキル」のブームが落ち着いてきて「ファスト教養」側に寄っている、という整理が実態に近いのかもしれない。
そもそもスキルも知識もそうインスタントに身につくものではない。
最近では、時間をかけて考えることの重要性や同じ本を繰り返し読むことの大切さをメッセージとして発する著名人や書籍も増えてきたため、ファストからスローへの回帰現象が起こることも考えられる。
企業の人材教育の上で大切なことは、流行に左右されるのでなく「時間をかけてじっくりと人材を育てる」ことに対して企業側も人材側も逃げないで取り組むことではないだろうか。